月の夜に降る雪

――詞華集 日々の営みの中で さまざまにうつろう 心模様です――
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後悔

後悔しても仕方ない。
それは分かってた。

誰かを亡くすと後悔する。
それも分かってた。

だから分かってた。
後悔は必ずあるけど、考えても仕方ない。

できるときにできることをして、
あとは後悔があっても仕方ない。

だけど今になって思う。

あの日、ぐずぐず仕事をしていないで、
すぐに帰って病院に行ってあげればよかった。
――それは電車一本二本の違いでしかないけど、
でも一分でも早く行けばよかった。

あの日、これから何日も泊まり込むことになるからと、
一人にして帰ったりしないで、病室にいればよかった。
――それはあのときの判断では当然なのだけど、
でも泊まってあげればよかった。

前の前の週、週末に帰ってあげればよかった。
こんな急にこんなふうになるとは知らず、
それは分かりようがなかったけれど、
でも帰ってあげればよかった。

その前の週末、旅行に行ったとき、
もっとたくさん話せばよかった。

前の月、どうしても予定が空けられなかったけど、
行きたいと言っていた旅行につきあえばよかった。
どんなに非難されても、休みを取ればよかった。


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そのとき

同じ頃に同じように家族に病を得た友人は、
痛みや苦しみにあえぐ姉をわたしより早く見送った。

そのときが来てしまったら、なんて言えばいいんだろう。

今は言える。
いろいろなことが言える。

でもそのときが来てしまったら、終わりに向き合う不安に対して、
わたしはなんて言ってあげられるだろう。

そう考えたこともあった。

言えることはないと思った。
そんな恐怖に言える言葉はないと思った。

思いついたのは「今日じゃないよ」という言葉だけ。
「でもそれは今日じゃないよ」「今日じゃないよ」
明日かもしれないけど、でも今日じゃない。

役に立たない言葉しか浮かんでこなかった。

・・・・・・

そのときが来たらあまりに早かった。

数日で逝った。

何も言う暇もなかった。
どれだけ不安だったかも、聞くことがなかった。

それはよかったのか、そうではないのか、
分からない。

逝ってしまったことに変わりはないから、
わたしにとってはどちらでも変わりはない。

そして当人の気持ちはもう分からない。


ひとり

もともと友達は多くなかった。
この五年、少ない友達も切れていった。
あるいは切っていった。

不安に苛まれた五年だったから。

不安の代わりに、悲しみがやってきた。
それは暗闇だけれど、でも終わりでもある。
終わりの次は顔を上げて。

新しいスタートを切るのだから。

人の関係に名前なんてつけられない。
家族でも恋人でもなく、顔見知りより親しいなら、
それは「友達」としか呼びようがない。

どう呼ぶかなんて関係ない。

少しずつ進んでいかなきゃ。
残りかすの人生だけれど、でも少しずつ。
そして「友達」ができた。

切れた。またできかけて、切れた。

近づいてくれる人もいた。
でも求められているものが違う気がした。
わたしが欲しいものと、相手が欲しいものと。

だからつなぐことができなかった。

わたしは向かない。人との関係に向かない。
ゆがんでるようだ。変なふうに。
足りないようだ。何か。

あるいは多すぎるようだ。

わたしは向かない。人との関係に向かない。
喪ったものが大きくて、他の関係をいくつも結んで、
大小たくさんの関係で埋めようとした。

そんなことはできるはずもなかった。

だってわたしだもの。ねじれたわたしだもの。
だって大きかったもの。なくした存在は。
だってわかりあえなかったもの。結局誰とも。

そしてまたひとり。

人は誰でもそうだけど。

またひとり。


独白

わたしの中には自分がきちんとできていないのかもしれない。

いや、さすがに自分というものは存在しているのじゃないだろうか。

ただその「自分」が、ぽかっと空いた空間の中に存在しているのが、空虚なのだ。

わたしはわたしの中の、ぽかっと空いた空間を満たしたい。
海の底のような、羊水の中のような、心地いい流動体で満たしたい。

その中に自分がいるのなら、わたしは寂しくないだろう。

わたしは頼りない手さぐりの空間で、よろめいたりしながら手を伸ばすこともない。
緩やかな流動体に包まれて、安心して揺れたり漂ったりすればいい。

でも友達では、この空虚を満たしてくれない。
わたしをすっぽり包み込んでくれはしない。
どうやらそうらしいということが、久しぶりに友達を得てみてまた分かる。

そうだ、ずっとそうだったんだ。

結局、ここを満たしてくれるのは、家族しかいないこと。
前に悟ったけど、家族と呼べる存在が夫一人だけになってしまったから、
他に満たしてくれる人は誰もいなくなってしまったから、
もっと欲しくなったのだ。

そうして友達を得てみたけれど、この人が友達である限り、あくまでお互い空虚の中に立つ存在同士なのだ。
愛でなくては、空虚を満たす流動体にはなれないのだ。

そしてこの人は、わたしを愛するようにはならない人なのだ。
どんな形の愛であれ。

男の人なら、夫と同じ愛では愛してくれない。
女の人なら、妹と同じ愛では愛してくれない。

わたしにとっての家族であったこの二つの愛は、友達では満たしてもらえないものだった。

友達を得てみて、また空虚を悟る。

もしひとつしかない残された愛がなくなったら、わたしはどうしたらいいのだろう。

と、友達を得てみてまた不安になる。


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