月の夜に降る雪

――詞華集 日々の営みの中で さまざまにうつろう 心模様です――
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誰にもそれはある

誰にもやりきれないことはあって、
誰も泣きながら立ち上がって、
いやでもまた歩いていく。

誰にも耐えきれないことはあって、
みんな立てなければ這ってでも、
ずるずるとまた進んでいく。

無題

人なんて結局みんなわたしを傷つける

表面だけの職場の友人のみにしておくのがいい、たぶん

仕事をやめれば終わっていく関係

人なんて親しくなればすれ違っていく

深く知り合わない知人程度の友達だけにするのがいい、きっと

いつでも遠ざかっていけるくらいの絆

人なんてみんなわたしを傷つける


友達の法則

人と仲良くなって、
親しく話すほど合う人で、
そんな人と出会えて幸せだと思ってつきあううち、
やがてまもなく気づく。

やはり最後は分かりあえないんだっていうこと。
最後の二歩くらい手前で、分かりあえなくなるっていうこと。
いや、三歩四歩手前でもうだめだっていうこと。

人と人とは100%は分かりあえない。

50%、60%でつきあうようにすれば、
たくさん友達がいる人になれる。

70%、80%は満足したいなら、
少数精鋭の友人を持てる。

90%を求めるとしたら、
友達のいない人になるだろう。


胸の奥

人を信頼してないって?

本当に悲しいこと、悲しすぎることは、
言えないよ。

誰だってそうでしょう?

人との関係を築けないって?

なんでも言える人なんて、そういない、
いないよ。

誰だってそうでしょう?


あなたたちに責められるいわれはないよ。


後悔

後悔しても仕方ない。
それは分かってた。

誰かを亡くすと後悔する。
それも分かってた。

だから分かってた。
後悔は必ずあるけど、考えても仕方ない。

できるときにできることをして、
あとは後悔があっても仕方ない。

だけど今になって思う。

あの日、ぐずぐず仕事をしていないで、
すぐに帰って病院に行ってあげればよかった。
――それは電車一本二本の違いでしかないけど、
でも一分でも早く行けばよかった。

あの日、これから何日も泊まり込むことになるからと、
一人にして帰ったりしないで、病室にいればよかった。
――それはあのときの判断では当然なのだけど、
でも泊まってあげればよかった。

前の前の週、週末に帰ってあげればよかった。
こんな急にこんなふうになるとは知らず、
それは分かりようがなかったけれど、
でも帰ってあげればよかった。

その前の週末、旅行に行ったとき、
もっとたくさん話せばよかった。

前の月、どうしても予定が空けられなかったけど、
行きたいと言っていた旅行につきあえばよかった。
どんなに非難されても、休みを取ればよかった。


そのとき

同じ頃に同じように家族に病を得た友人は、
痛みや苦しみにあえぐ姉をわたしより早く見送った。

そのときが来てしまったら、なんて言えばいいんだろう。

今は言える。
いろいろなことが言える。

でもそのときが来てしまったら、終わりに向き合う不安に対して、
わたしはなんて言ってあげられるだろう。

そう考えたこともあった。

言えることはないと思った。
そんな恐怖に言える言葉はないと思った。

思いついたのは「今日じゃないよ」という言葉だけ。
「でもそれは今日じゃないよ」「今日じゃないよ」
明日かもしれないけど、でも今日じゃない。

役に立たない言葉しか浮かんでこなかった。

・・・・・・

そのときが来たらあまりに早かった。

数日で逝った。

何も言う暇もなかった。
どれだけ不安だったかも、聞くことがなかった。

それはよかったのか、そうではないのか、
分からない。

逝ってしまったことに変わりはないから、
わたしにとってはどちらでも変わりはない。

そして当人の気持ちはもう分からない。


ひとり

もともと友達は多くなかった。
この五年、少ない友達も切れていった。
あるいは切っていった。

不安に苛まれた五年だったから。

不安の代わりに、悲しみがやってきた。
それは暗闇だけれど、でも終わりでもある。
終わりの次は顔を上げて。

新しいスタートを切るのだから。

人の関係に名前なんてつけられない。
家族でも恋人でもなく、顔見知りより親しいなら、
それは「友達」としか呼びようがない。

どう呼ぶかなんて関係ない。

少しずつ進んでいかなきゃ。
残りかすの人生だけれど、でも少しずつ。
そして「友達」ができた。

切れた。またできかけて、切れた。

近づいてくれる人もいた。
でも求められているものが違う気がした。
わたしが欲しいものと、相手が欲しいものと。

だからつなぐことができなかった。

わたしは向かない。人との関係に向かない。
ゆがんでるようだ。変なふうに。
足りないようだ。何か。

あるいは多すぎるようだ。

わたしは向かない。人との関係に向かない。
喪ったものが大きくて、他の関係をいくつも結んで、
大小たくさんの関係で埋めようとした。

そんなことはできるはずもなかった。

だってわたしだもの。ねじれたわたしだもの。
だって大きかったもの。なくした存在は。
だってわかりあえなかったもの。結局誰とも。

そしてまたひとり。

人は誰でもそうだけど。

またひとり。


独白

わたしの中には自分がきちんとできていないのかもしれない。

いや、さすがに自分というものは存在しているのじゃないだろうか。

ただその「自分」が、ぽかっと空いた空間の中に存在しているのが、空虚なのだ。

わたしはわたしの中の、ぽかっと空いた空間を満たしたい。
海の底のような、羊水の中のような、心地いい流動体で満たしたい。

その中に自分がいるのなら、わたしは寂しくないだろう。

わたしは頼りない手さぐりの空間で、よろめいたりしながら手を伸ばすこともない。
緩やかな流動体に包まれて、安心して揺れたり漂ったりすればいい。

でも友達では、この空虚を満たしてくれない。
わたしをすっぽり包み込んでくれはしない。
どうやらそうらしいということが、久しぶりに友達を得てみてまた分かる。

そうだ、ずっとそうだったんだ。

結局、ここを満たしてくれるのは、家族しかいないこと。
前に悟ったけど、家族と呼べる存在が夫一人だけになってしまったから、
他に満たしてくれる人は誰もいなくなってしまったから、
もっと欲しくなったのだ。

そうして友達を得てみたけれど、この人が友達である限り、あくまでお互い空虚の中に立つ存在同士なのだ。
愛でなくては、空虚を満たす流動体にはなれないのだ。

そしてこの人は、わたしを愛するようにはならない人なのだ。
どんな形の愛であれ。

男の人なら、夫と同じ愛では愛してくれない。
女の人なら、妹と同じ愛では愛してくれない。

わたしにとっての家族であったこの二つの愛は、友達では満たしてもらえないものだった。

友達を得てみて、また空虚を悟る。

もしひとつしかない残された愛がなくなったら、わたしはどうしたらいいのだろう。

と、友達を得てみてまた不安になる。


週末の朝

週末の朝。
幸せな物音。

朝の光の中、歩いていく親子の声。

これから育っていく命と、
そんないいものを持っている親。

何もない自分の部屋の中を見渡して、
縁のない幸せを思い知らされる朝。


心のひきこもり

もう誰にも二度と心を許さない

この痛手は耐えかねた

もう誰にも二度と心を許さない


現実

夜の電車の中で、
ふと窓に映る自分を見てはいけない。

年が露骨に出ている顔に、愕然とするから。

本当はそんなに老け込んではいないかもしれない。
人と話しているときは、表情もついているのだから。

でも電車に映る顔は年が出すぎていて、
醜く映る。


2ヶ月

あの子に会わず、話もしない2ヶ月が過ぎた。

そんなことはこれまでもあった。
半年一年会わないような年もあった。
でもこの世界のどこかにはいた。

電話をすれば声を聞けるような気がするけど、
家に行けばそこにいるような気がするけど、
どこにもいない。

あんなに笑ってた子だったのに、
あんなに友達がたくさんいて、
あんなに遊びまわって、旅行も行って、
人に好かれて、みんなの輪の中にいて、
病気や死からあんなにほど遠いところにいたのに。

どうしてこんな子が、こんなに早くに、
この世のどこにもいないなんてことになってるんだろう。

そんな話は世の中のあちこちに転がってて、
特別なことでもなんでもないけれど、
わたしにとってはありえないこと。

もう会えないなんて、
会いたいと思っても会えないなんて、
声を聞けないなんて、
いつか声の記憶も薄れていくなんて、
わたしが年をとっても、
いつまでも写真のままの笑顔だなんて。


人はひとり

誰も助けにはなってくれない。

誰もわたしのすべてを引き受けてはくれない。

依存してはいけない。
依存させてくれる人はいないから。

家族だけが頼らせてくれる。
それでも最後の最後までとは限らない。
最初の最初から頼れない家族もいる。

誰も不安や悲しみをすべてよりかからせてはくれない。

何度も何度も思い知ってきたことのはずなのに、
また思う。

誰もわたしのすべてを引き受けてはくれない。

自分ひとりで越えていかなきゃならない。


お守り

置かれているすべてのお守りの無意味さにかすかな苛立ちを覚える。
何もしてくれなかった、何も変わらなかった――当たり前のことなのに、
お守りなんかで何かがどうにかなるわけないのに、なんとなく許せない。


わたしの人生は終わった

あなたがいないと、この世は違うものになってしまう。
だからまだ行かないでほしかった。

わたしの人生は終わった。

まだ続く命を捨てはしないけど、
だからまだこれから生きていくけど、

ここから先は残りかすの人生。

今は新たに残りかすの人生を始めようとしている。